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歌詞エッセイ 「法則のある部屋から」歌詞エッセイ

法則のある部屋から

 

眠れない。今日はなんだか眠れない夜だ。

空は薄っすら白く、藍色をしている。

この街は本当に"眠らない街"なんだろうな とか 本当の意味で""になることは、きっとないんだろうな なんてボーッと考えていた。
本当にボーッとだ。

恋人は隣で静かに眠っている。

「サユ」

返事はない。
はーっとため息が出る。
身体中の力が抜けていくのがわかる。

俺は愛する人の前でも気を張っているのか となんだか悲しくなった。

長い睫毛に白い肌。
彼女は特別美人という訳ではなかったが、瞼のホクロが本当に、凄く素敵だった。
目を開けていればわからないホクロ。
こうやって君が眠っている時にしかじっくり見る事が出来ない。
僕が君に教えてやったんだ。
君のホクロを。

サユとはこうやって暮らし始めてもう1年と6ヶ月と18日が経つ。
刺激のない生活、堕落した生活、僕もサユもこんな生活に慣れてきて正直、飽き飽きしているに違いない。

付き合いたての頃は色んなところへ出かけた。
サユが行きたいところには絶対に行くと決めていたし、サユも僕が行きたいところには嫌な顔をせず、付いてきてくれた。

ああ、最近はこの部屋から出ていないなぁ。
僕はバイトに行かなくなって、サユは夢だった美容師になった。
なんだかちょっと老けた気がする。でも何も言わない。僕にも何も言わないのだ。

ベッドの上にはすぐエアコンがあってこんな残暑には少し寒いくらいだ。
エアコンの緑を指で挟んでは消し、また緑の光が差し込む。
昔友達とやった隠れんぼみたいだな…。

押入れから差し込む光に似ている。
暗いところに一人で閉じこもって怖くてたまらなかった。
誰も見つけてくれなかったらどうしよう、ずっと一人だったらどうしようって。でも僕の事を見つけてくれたのは、間違えなくサユだ。

 

もしこの先この生活が続くなら、この部屋にふたりでいるのなら と考えるとそれはそれは恐ろしい。
僕には幸せ
というものが何なのか未だによく分からないのだ。

サユが笑うたび、心がぽっと明るくなる。あったかくなる。
サユに手を握られるたび、これが続けばいいな
と感じる。
サユの柔らかい唇が触れるたび、溶けるような思いに駆られる。
サユが泣くたび、僕まで泣きそうになる。
サユ、サユ、サユ、サユ。僕はサユと一心同体なのではないか?と時々思う。
思って怖くなる。いつか別れが来たら?

 

「あのね!わたし内定が決まって、渋谷の憧れていた美容室でこれから働けるの!それでね、」

 

苦しくなる。

 

「疲れた…。ご飯…何か作ろうか?」

 

何も出来なくてごめんね。

 

「薬品でね、どんどん手が荒れるの…ははは」

 

どうしていつも笑うの?

 

「サユ…」

返事はない。
カーテンを開ける。
見えるのは青白い光に照らされた顔、ホクロ。

 

死んでいるみたい…。

綺麗だった。こっちの方がよっぽど。

 

細い首にそっと両手を当てた。

「好き」

弱々しい声だった。それはそれは か細い声。届かないと思った、届くはずもないと思った。

サユは太陽みたいな人間だ。
だから一緒にはなれないと思う。
僕はこんな夜みたいな人間だ。
たぶん、きっと。一生だ。
でも飛べる気がしたんだ。
ふたりなら、どこまでも遠いところまで。何かが降ってきて化学反応が生まれたりしないかな。
もう次の季節の匂いがする。本当は明日なんて来ないで欲しかったよ。

「おやすみ、サユ」

 

 

どこにでもあるワンルーム

どこにでもある設定で

どこにもない、有り触れたふたりで

何処と無く寂しさ持ち寄って

足りなくなって欲張りになって

昔みたいにって願いたくないって泣いていたの

 

安心と快楽で窓を開けて

今夜はふたりで月を眺めよう

 

この部屋にふたりで居れば

この部屋の法則で幸せな世界を夢にまで見て

明日が来なくてもって思ってしまうほど

ふたりが居れば

どこまでも いけるのさ

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